本を読む:闇に希望を見る
大陽寺はのんびり読書をするにはぴったりです。というわけで、おすすめ本の紹介をします。
『本当の夜をさがして 都市の明かりは私たちから何を奪ったのか』
ポール・ボガード著 上原直子 訳 2016年 白揚社
原題『The End of Night』
通常、「光は善、闇は悪」として語られ、闇を遠ざけようとします。しかしこの本を読むと、その価値観が覆され、闇に会いたくなります。それは「闇があるから光がある」という単純な解釈ではありません。闇は私たちの視界を塞ぎ、内側へ深く潜ることを可能にします。
夜が孤独や不安を強くする時間だと感じているとしたら、それは光が自分を照らしているからかもしれません。自分とその周りの狭い世界、限界と向き合わざるを得なくなります。もしも視界の効かないほど真っ暗闇であったなら、世界は狭いのか広いのかわからず、頼りになるのは自分の感覚だけで、行動しだいで何だってできるような気さえしてくるかもしれません。夜が孤独を運んでくるのはなく、夜を照らす光が、局所的に孤独を炙り出しているとも考えられます。真っ暗闇の中で認識できるのは、自分を囲む空気と自分そのものだけであり、周りと比べることもなく自分の内側に深く深く潜って行くことができる。モノと情報が多すぎる現代において、自分の奥深くを見つめることは難しいですが、闇はそれを助けてくれるでしょう。
著書は「光害」への問題提起が主軸です。明るすぎる都市の灯りが、環境や生態系にどれほど影響を及ぼしているのかを知ることができます。日本では話題に取り上げられることが少ない光害ですが、読後は街の異様な明るさが目につくようになりました。
大陽寺は人里離れたところにあるため、闇を体感することができます。晴れていれば満天の星空も魅力的です。闇の中から見上げる星空は、果てしなく遠くに感じるようで、でも手を伸ばせば世界の果てに触れてしまうのではないかというほど狭いようにも感じ、不思議な感覚になります。
また、山の向こうが明るく見える方角が池袋とのことですので、光害の実態を知るとともに、光から離れなければそれを知ることができないという事実も目の当たりにします。
なお、大陽寺の夜道は街灯が無く危険ですので、夜にお散歩する際は、複数人で懐中電灯などをお持ちください。
その日の天気や住職の気分で、お寺の灯りを一時的に消灯して星空を眺める時間を設けることもあります。
本当の夜を、さがしてみませんか。